ニュース News

Furusapo ニューヨーク駐在員 ニュースvol.1

WHOLE FOODS MARKETから見える、ニューヨーク市民のサステナブル意識

2023年秋にニューヨークで暮らし始めてから、商品を購入する判断基準が変化したように感じる。特に食料品の買い物の際、日本にいた頃は値段や生産地ぐらいにしか目がいかなかったが、こちらのスーパーマーケットに行くと、商品を選択するにあたっての判断材料が豊富に揃っている。その商品がどのような環境で育てられたのか、人々がどのような労働環境の中で収穫したものなのか、どのような方法で捕獲されたものなのか等、これらが明確に表示されており、普段の買い物一つをとっても我々消費者の選択に大きな責任があるように感じられる。ここニューヨークでは、まさにサステナブルな意識が自然と生活の中に取り込まれているのだ。今回は、普段食料品の調達のために毎日のように通うWHOLE FOODS MAEKET(ホールフーズ・マーケット)の取り組みを紹介したい。

WHOLE FOODS MARKETは、自然由来の商品やオーガニック食品を豊富に取り揃え、高品質でサステナブルな商品を消費者に届けることに注力している、テキサス州オースティンに本社を置くアメリカで人気のスーパーマーケットだ。同社はまた環境保護、社会貢献、そしてフェアトレードなどの経済的公正を推進するSDGsの原則を具体化している。環境保護を意識した農法の支援、エシカルな供給チェーンの確立、廃棄物削減への取り組みなど、SDGsの目標を実践する模範となっており、サステナブルな消費文化の普及に貢献している。これらの取り組みは、買い物に訪れた消費者にもわかるように、店内のポップや商品の陳列方法などで明確に示されている。

WHOLE FOODS MARKETは、1980年に従業員数約20人で立ち上げたスーパーマーケットだが、現在は、米国内に500店舗以上を持つ大企業に成長した。パーパスドリブンの会社として知られ、「to nourish people and the planet(人と地球に栄養を与える)」をパーパスとして掲げていて、それは2017年のアマゾンによる買収後も変わらない。

地元の生産者を支援

野菜や果物コーナー、乳製品や肉のコーナーなど至る所で「LOCAL」と書いてある写真付きのポップを目にする。これは、日本のスーパーマーケットでも見られるいわゆる「生産者の顔が見えるシステム」だ。WHOLE FOODS MARKETは「地産地消」の精神に基づき、地元の農家から直接仕入れた新鮮な果物や野菜等を提供している。これにより、地域経済の支援に繋がるだけでなく、食品の鮮度と品質が保たれ、長距離輸送減による炭素排出の削減も実現する。

「LOCAL」のポップは、商品を選ぶ際に我々の地域社会と環境に対する意識を高め、責任ある消費者としての行動を促している。地元で育った商品を選ぶことが、単に美味しい食事を楽しむだけでなく、持続可能な未来を作る行動の一部であることを教えてくれる。

売上の一部を寄付

果物や野菜コーナーでは、商品が色や形によって綺麗に陳列されており、視覚からもその新鮮さが直感的に伝わる。毎度この美しく並んだ果物や野菜を見ると、思わず購買意欲が増してしまう。その美しい陳列の中で「SOURCED FOR GOOD」というポップが目に入った。

「SOURCED FOR GOOD」とはFair Trade USARainforest AllianceopensRegenerative Organic Certifiedなど国際的な第三者認証機関と協力し、商品の調達先での労働者、コミュニティ、環境保護を支援するWHOLE FOODS MARKETが立ち上げた独自のプログラムだ。本プログラムは、商品が環境と社会に配慮した方法で調達されていることを保証するものであり、持続可能な農業、公正な労働条件、環境保護など、社会的および環境的に意識の高い生産プロセスの促進に貢献している。

例えば「SOURCED FOR GOOD」のマークが付いたこちらのバナナは、売上の一部が学生奨学金の資金提供に使われるようだ。ポップには、眼鏡や靴などの学生が成長するために必要な学用品の提供、歯科治療、さらには植樹活動に至るまで、バナナの売上が多岐にわたる社会的貢献に充てられると記載されている。このように、商品の販売を通じて教育の機会拡大、社会的公正、環境保護といったSDGsの複数の目標に取り組むことで、単なる小売業者を超えた価値を提供している。我々消費者はこれらの商品を選ぶことで、持続可能な開発に直接貢献することができるのだ。「SOURCED FOR GOOD」の取り組みは、まさに我々の小さな選択が世界の大きな変化につながることを象徴している。

飼育環境や捕獲方法まで見える化

これまで肉を買う際に、家畜がどのような環境で育てられ、一生のうちどのぐらいの割合を牧草地で過ごし、どのぐらいの輸送時間をかけて牧場まで運ばれてきたのか等、考えたことがあるだろうか。WHOLE FOODS MARKETは動物福祉に特に配慮をしており、食肉部門では「抗生物質の使用禁止」「肉牛、羊は一生のうち3分の2以上を牧草地で過ごす必要がある」といった基準の他、生産者に対し「飼育、輸送、屠殺の方法に関する基準」等、同業他社に例を見ない厳しい品質基準を設けている。肉コーナーではこれらの基準を満たしているかどうかラベルや認証マークで確認することができる。

卵に関しても同社の取り組みは顕著である。取り扱う卵は全て「ケージフリー」(鶏をケージに入れずに自由に動き回れる状態で飼育すること)であり、さらに4つの細かい基準を設けている。鶏舎の中で自由に動き回ることができる「Cage Free Plus」や、鶏舎だけでなく屋外へのアクセスを確保する「Outdoor Access」等だ。卵のパッケージにはそれぞれラベルが貼られており、鶏が屋内外で過ごす時間のバランスや、屋外での運動量を把握することができる。これらの情報は消費者にとって、卵がどのような環境で生産されたかを理解する上で重要であり、動物福祉に配慮した選択ができるようになっている。

海産物においても、持続可能な天然魚の捕獲から責任ある養殖の方法まで、非常に厳しい基準を設けている。同社で取り扱う海産物はすべて、持続可能な天然水産物に関する世界有数の認証プログラムである「海洋管理協議会(MSC)」の認定を受けたものである。海産物コーナーではMSCのブルーのエコラベルが表示されており、消費者は過剰漁獲や環境に悪影響を及ぼす漁法を避け、持続可能な漁業に貢献する選択をすることができる。

商品を選択する責任

このようにWHOLE FOODS MARKETは、持続可能な未来に向けた取り組みをしているだけでなく、それらをわかりやすく消費者に伝える努力を行っている。私たち消費者はここでの買い物を通じて、どの商品を購入するかの選択が未来に与える影響を考えさせられ、自然とサステナブルな意識が醸成されているように感じる。そしてこの意識はスーパーマーケットを出た後の普段の生活にも影響を与えてくれる。WHOLE FOODS MARKETは、生産者の努力だけでなく、消費者が商品を選択する責任も、サステナブルな未来をつくるうえで重要なステップであることを教えてくれる場所である。

文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)


参考:Whole Foods Market UK(https://www.wholefoodsmarket.co.uk/home)、Our Sourced for Good Program | Whole Foods Market(https://www.wholefoodsmarket.com/mission-values/sourced-for-good)、Whole Foods Market turns spotlight on responsible sourcing | Supermarket News(https://www.supermarketnews.com/sustainability/whole-foods-market-turns-spotlight-responsible-sourcing)、Animal Welfare Certified Food Labeling Program – Global Animal Partnership(https://globalanimalpartnership.org/program/)