「全ての人に質の高い教育を」、Public Libraryで広がる無限の可能性

海外で生活をする人々にとって、語学の習得は必須の課題である。英語で話す機会を増やすためには学校に通うのが最適と考え、語学学校について調べてみた。ニューヨーク州はアメリカの中でも、異なる人種や民族の人々が住む割合が高い多様性に富んだ州であり、語学学校の数も多い。学校によって授業料の幅はあるものの、1ヶ月の相場は約＄1,500だ。語学学校の他に、コロンビア大学が開講しているTeacher’s Collegeも人気がある。このプログラムは、コロンビア大学のTESOL（Teaching English to Speakers of Other Languagesの略で、英語を母国語としない人々に英語を教えること）修士課程の学生がカリキュラムの一貫として授業を行い、3か月60時間のクラスが＄450と比較的リーズナブルである。しかし、長期的に通い続けたい私にとって、費用面での負担がやや障壁となった。そこで見つけたのが、近所のPublic Library（公共図書館）が開講している無料のESLクラスである。ESLとはEnglish as a Second Languageの略で、英語を母国語としない人を対象に提供される英語学習のためのクラスだ。2月から通うこのESLクラスは、無料でありながら授業の質の高さに大いに驚かされている。今回は、Public Libraryが提供する質の高い教育機会についてレポートしたい。

Public Libraryの歴史

独立戦争後、アメリカのPublic Libraryの役割は、誰もが情報や知識を自由に入手し、文化的な生活を送るための重要な使命を担ってきた。啓蒙時代の文学サロンから始まり、当時は特権階級だけが利用できたが、1731年にアメリカ建国の父であるベンジャミン・フランクリンによる会員制図書館の設立により、より多くの人が教育と情報にアクセスできる新たな道を切り開いた。これは特に女性や下層階級にとって、新たな学習と表現の場を提供する画期的な動きだった。19世紀に入ると、購読図書館やメンバーシップ図書館が出現し、読書への関心を広げたが、まだ利用できる人は限定的だった。1833年、ニューハンプシャー州ピーターバラに、Public Libraryが初めて全て税金によって設立され、図書館の公共性が広がった。その後、Boston Public Libraryなどの設立によりネットワークが全国に広がり、知識と教育の普及を促進した。1900年代初頭には、慈善家であるアンドリュー・カーネギーの寄付によって、Public Libraryが急速に拡大した。このようにしてPublic Libraryは、アメリカ全土で教育と自己啓発の機会を提供し、コミュニティの中心となった。

無料のESLクラス

私が通うクラスは週に2日、2時間の授業が行われ、4か月毎の学期で構成されている。生徒は14人で、フランス、アルジェリア、ブラジル、チリ、韓国、中国など、様々な国から来ている。ESLクラスに通うにはまず図書館の学生登録を行い、その後クラス分けテストを受験する。リスニング、文法、ライティング、リーディング、スピーキングと各1時間、合計5時間の試験を受ける必要があり、想像以上の本格的な試験に驚いた。デジタル化が進んでおり、スピーキングテストもコンピューターと対話形式で実施する等、全てパソコンで完結することにも衝撃を受けた。テスト結果によりレベル１～４のクラスに振り分けられるのだが、授業の質を保つために定員数が決められている。定員を超えた人たちはWaiting Listとなるが、無料で提供されるこのESLは非常に人気があり、常に多くの人がWaiting Listで待っている状態だ。出席率は厳しく管理されており、1ヶ月に3回以上欠席すると即座に受講資格が失われ、Waiting Listの人に席を譲る必要がある。先生はボランティア講師であり、教員免許保持者か過去に教師としての経験があるベテランだ。図書館のホームページには、学生登録と並んでボランティア講師の登録フォームもある。このように、無料ながらも充実したカリキュラムと質の高い授業を提供できるのは、Public Libraryが誰にでも平等に教育の機会を提供するという重要な役割を担っているからに他ならない。

その他開講されている、多種多様なクラス

ESLの他にも様々なクラスが開講されており、学生登録をするとメールで案内が届く仕組みだ。私はESLの他に、週に1回開講されるConversation Clubにも参加している。様々なトピックスについてディスカッションをしたり、アクティビティに参加することで英語スキルを向上させ、世界中から集まる英語学習者とのコミュニティを構築することができる。また、Citizenship Classでは、アメリカ合衆国憲法と政府の仕組みについての授業や、市民権取得試験の準備、面接対策など、市民権取得を目指す人々にとって必要な知識とスキルを提供している。その他、コンピュータースキルや金融リテラシー、カルチャーリテラシーなど、多岐にわたるクラスが無料で受講可能だ。

就労支援のサポート

就労支援にも力を入れており、日本のハローワークの様な役割も担っている。図書館の会員カード保有者は、Job Nowというオンラインの就労支援サービスを利用することができ、地域の求人情報検索、プロによる履歴書添削、面接の練習などが24時間365日利用可能だ。また就労のためのスキルアップ支援も実施しており、そのうちの一つがGoogle Career Certificatesの奨学金プログラムだ。Google Career CertificatesとはGoogleが提供するオンライン職業訓練プログラムの一つで、ITサポートやデータ分析、デジタルマーケティングなど需要の高い特定の分野で必要とされるスキルを学び、資格を取得することができる。学位や特定の職歴がなくてもこの資格を取得することにより、競争率の高い分野での雇用機会を手に入れることが可能だ。Public Libraryは本奨学金プログラムにて、資格取得に必要な費用の全額または一部を補填し、受講者が新しいキャリアパスに進むためのサポートを提供している。就労支援サービスや職業訓練プログラムを通じて、利用者のキャリア開発を積極的にサポートし、地域社会の雇用機会拡大に貢献しているのだ。

Public Libraryが果たす重要な役割

このように、Public Libraryの取り組みは教育機会の平等化だけでなく、社会全体の知的資本の向上にも貢献している。特に、多様なバックグラウンドを持つ人々に対する包括的な支援は、地域社会の多様性と包摂性を促進する上で重要な役割を果たしている。Public Libraryが提供する様々なクラスや就労支援プログラムは、人々が自らの能力を最大限に発揮し、より豊かな生活を送るための基盤を築いている。

文：山口友妃慧（Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員）
参考：Local Population Changes and Nation’s Racial and Ethnic Diversity (census.gov)（https://www.census.gov/newsroom/press-releases/2021/population-changes-nations-diversity.html）、ニューヨークのお勧め語学学校 ー 費用と選び方・人気学校を比較 | ニューヨーク留学ガイド (newyork-gogaku-ryugaku.com)（https://newyork-gogaku-ryugaku.com/language-school）、ESL Integrated Skills Course | CLP Courses | Community Language Program – Learn English at Columbia University | Teachers College, Columbia University（https://www.tc.columbia.edu/communitylanguage/clp-courses/esl-integrated-skills-course/）、Home – Jersey City Free Public Library (jclibrary.org)(https://www.jclibrary.org/)、A History of US Public Libraries | DPLA(https://dp.la/exhibitions/history-us-public-libraries)、Welcome to Brainfuse eLearning（https://landing.brainfuse.com/authenticate.asp?u=main.jerseycityjn.nj.brainfuse.com