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Furusapoニューヨーク駐在員ニュースvol.7

ニューヨーク在住の日本人女性が立ち上げたサステナブルな靴ブランド「Oito」

スニーカーのように履きやすくて疲れないのに、パンプスのような美しいデザイン。ついつい履きたくなる、履く人を自由にしてくれる靴、そんな女性の理想を叶えてくれる靴ブランドがある。
「Oito(おいと)」。糸を紡いでいくように、人との繋がり、自然との繋がり、また「つくり場」と「消費者」の繋がりを大切にするという意味を込めたブランド名。Oitoの靴は、機能性の優れた和紙糸で編んでいるため、まるで履いていないかのうような優しい肌心地のうえ、蒸れや匂いの悩みを解決してくれる。さらに、自宅でいつでも簡単に洗濯機で丸洗いができるため、何度も繰り返し洗って履くことができる。そんなサステナブルな靴ブランド、Oitoの創始者である中條亜耶さんにニューヨークで出会った。今回は、Oito立ち上げのストーリーや、現在ニューヨーク在住でアメリカの企業で働く中條さんだからこそ持つサステナブルな視点について、お話を伺った。

日本の女性はもっとわがままになっていい

「女性が困っていることを解決したい」、Oito立ち上げのきっかけはこんな想いからだった。幼少期をシンガポールで過ごし、就職後はスタンフォード大学でMBAを取得するなど海外で長く過ごすうちに、自分よりも他者を気遣うことができる日本人女性が、自らをいたわり、優しく包み込むような商品をつくりたいと感じるようになった。ニーズを調査するため街行く女性を観察したところ、パンプスを履く多くの女性が足を浮かせていることに気が付いた。もしかしたら靴に関する共通の悩みがあるのかもしれないと仮説を立て、女性100人にインタビューを実施した。偏平足や足の甲の高さ、指の長さなど足へのコンプレックスから生じる「靴の履きづらさ」の悩みに加え、「蒸れ」「匂い」など、ほぼすべての女性が靴に対して悩みを抱えていることがわかった。素敵な靴を履いて足を綺麗に見せるためには少々我慢してでも靴に合わせるしかないという、今までの常識を覆す「女性をもっと自由にする靴づくり」を目指した。


「履く人」だけでなく「つくる人」も幸せ、幸せの循環をもたらす靴

どんな靴だと女性が自由になれて、心地よく感じることができるのだろうか。そのヒントが女性100人に実施したインタビューから見えてきた。当時コロナ禍だったこともあり、多くの人が孤独感や寂しさを感じていた。そんな中、家族や友人など人と触れ合っている時や、自然と触れ合っている時に多くの人が心地よさを感じていることがわかった。従来の靴のように合成素材で足を包むのは人々が求める心地よさとは程遠いと考え、間伐材を原料とした和紙糸に着目した。和紙糸は、耐久性はもちろん、通気性・吸湿・防臭といった機能性に優れており、合成素材と違って均質性がないため、空気のクッションとなり足を優しく包み込んでくれる。一方で、工場からすると編むのが難しく非常に扱いづらい素材であり、理想の靴をつくってくれる工場を探すのに苦労した。コロナの影響で人々が外出する機会が減り、靴の生産量が大きく減少していた状況から、そのような「つくり場」を助けたい想いがありMade in Japanにこだわった。海外生活が長い中條さんは、日本の技術や産業、文化の素晴らしさを感じる機会が多くあり、これらを守り世界に伝えたいという想いが強かった。相手を思いやれる日本人女性だからこそ、自分たちさえ良ければいいのではなく、つくっている人も幸せであることが幸せの循環につながると信じ、Oitoの靴は真摯に靴作りを続けている工場や職人によってつくられている。

「Mottainai」は究極のエコ

Oitoの靴は、「履く人」「つくり場」だけでなく「地球環境」にも優しい。従来の靴は組み立て部材が非常に多く、ヒールにくぎ打ちがされている等、リサイクルしにくい商材である。Oitoの靴は3つの部材からなり、なるべく制作工程をシンプル化し、環境負荷の少ない素材を使用している。このシンプルな素材、つくり方は、メンテナンスのしやすさにもつながっている。Oitoの靴は、まるで服のように自宅の洗濯機で丸洗いが可能なため、何度も洗って長く使うことができる。この発想は、中條さんの田舎の祖母がいつも「もったいない」と言って、食事を残さないように食べたり、着古した服を雑巾や手ぬぐいに縫い直して使用したりしていたことに由来する。日本にもともと根付く「Mottainai」精神こそが究極のエコであり、SDGsの根幹ではないかと中條さんは言う。

サステナブル目標は会社全体で取り組むべき

中條さんは現在、サンフランシスコに本社を置き世界900以上の都市圏でフードデリバリーやライドシェアリングの事業を展開する、「Uber(ウーバー)」のニューヨークオフィスで働いている。Uberは、2040年までに全世界でゼロエミッションのプラットフォームを実現することを目指し、電気自動車の普及やインフラの整備に尽力している。日本とアメリカ、両方の企業で働く経験を持つ中條さんに、企業におけるサステナブルな取り組みの違いや認識の違いを聞いてみた。Uberで働く中で感じることは、特定の部署がサステナビリティやダイバーシティに取り組むのではなく、会社全体の意思決定として行われているという。それは、DEI(Diversity「多様性」、 Equity「公平性」、Inclusion「包括性」の略)推進の観点から見てわかる。
同社は世界中のインフラ(交通手段、食)を提供する企業であり、ターゲット層が幅広い。そのため、役員を含め従業員は国籍、人種、性別など様々なバックグラウンドを持つ人々で構成されている。この多様性が、意思決定の分散化に寄与しているのではないかと考えられる。この状況を維持するためには企業の弛まぬ努力が必要であり、それこそがまさに企業としてのサステナブルな取組みではないだろうか。
また働く人々の自由度も日本と比べて男女問わず柔軟であり、例えば17時~20時はファミリータイムとして、子どものお迎えや食事の準備などのために仕事を中断することが当たり前だそうだ。日本の会社だと私用で仕事を中断することに躊躇する傾向があるが、様々な国籍、人種の人々が集まって働くからこそ、各人の違いが尊重されやすいのではないだろうか。企業がSDGsとして数値目標を掲げ取り組んだとしても、具体的な取り組み内容や目的を従業員が理解していないと意味がない。これらの事例はUberが取り組む施策のほんの一部に過ぎないが、サステナビリティやダイバーシティの取り組みが企業全体に浸透しており、社員一人一人の意識に根付いている点が、真にサステナブルな企業の在り方だと感じた。

文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)

参考:履き心地を超えた、肌心地。女性を足元から自由にする糸パンプスOito(おいと) – Oito Japan(おいと) (oito-jp.com)(https://oito-jp.com/)