アメリカのトップ企業、Metaが取り組むサステナブル施策
世界最大のソーシャルネットワークであるFacebookやInstagramを運営するグローバル企業、Meta(メタ)。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の一角としてアメリカを代表する存在である同企業は、サステナビリティに非常に力を入れていることでも知られている。2020年には全事業活動でネットゼロ(温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにすること)を達成し、100%再生可能エネルギーでの運営を実現。2030年までにバリューチェーン全体でのネットゼロを達成し、さらにウォーターポジティブ(企業が消費する水よりも多くの水を供給すること)の実現を目標としている。このような目標を掲げるMetaが、実際に私たちに見える取り組みとしてどのようなことを行っているのかを調査すべく、ニューヨークオフィスを取材した。
LEED認定を取得したサステナブルなオフィス空間
カリフォルニア州メンローパークに本社を置き、世界101都市にオフィスを構えるMetaは、世界で最もサステナブルなオフィスの設計・運営を目指している。世界中にあるオフィスのうち実に62ものオフィスがLEEDの認証を取得しており、今回取材したニューヨークオフィスもそのうちの1つである。LEEDとはLeadership in Energy and Environmental Designの略で、米国グリーンビルディング協会によって開発された世界的に認められた持続可能な建物の第三者検証基準だ。
◆公共交通機関へのアクセスが良好
オフィスは、かつて米国郵政公社(USPS)として使われていた複合ビルの中に位置する。地下鉄、バス、鉄道のハブ駅でもあるペンシルベニア駅と直結しているため、市内外どこに住んでいても通勤が容易である。従業員には交通手当が支給され、公共交通機関の利用が推奨されており、マイカー通勤による環境負荷を低減している。また、オフィスの前にはシェアバイクのステーションが設置されており、通勤ラッシュ時の公共交通機関の混雑を避けたい自転車利用者にとっても非常に便利だ。
◆自然光の活用
建物に入ってまず驚いたのが、その明るさだ。スチールガラスでできた天井から自然光が差し込み、まるで屋外にいるかのような解放感がある。自然光を最大限に活用するデザインにより、人工照明の使用を削減し、さらには従業員の生産性と満足度を高める効果が期待できる。
◆グリーンスペースの設置
オフィスには、至る所にリラックス効果やコミュニケーションを促進するためのグリーンスペースが設けられている。屋上からはマンハッタンのビル群が一望できる一方で、緑豊かな庭園が広がっており、従業員がコーヒーを片手に同僚とリラックスして談笑する姿が散見された。こうした屋内外の植物は、空気質の改善やストレス軽減に寄与し、従業員のウェルビーイングをサポートしている。
◆ゴミの分別とリサイクルの推進
オフィス内では、徹底したゴミの分別とリサイクルのシステムが導入されている。各フロアに分別用のゴミ箱が設置されており、従業員が日常的にリサイクルに参加できるようになっている。缶・瓶・ペットボトル等の容器、食べ残し等のオーガニック、ビニール袋等のリサイクルできない物、紙類、に分かれており、日本とは少し異なる分別の仕方である。アメリカで生活していると、プラスチック容器の多さやゴミの分別・リサイクルに対する意識の低さを感じることが多く、このように細かく分別されたゴミ箱を見る機会は非常に珍しい。
◆授乳室の設置
各フロアには「Lactation Room」と呼ばれる授乳室が設けられている。プライベートな空間に快適な椅子やソファー、コンセントの電源が備えられており、女性が周りの目を気にすることなく安心して授乳や搾乳を行うことができる。アメリカの産休・育休は、連邦州と州法に基づいており、取得可能な期間は最大12週間と、他国に比べて非常に短いのが特徴である。産休・育休明けの女性が安心して仕事に復帰できるよう、オフィスのデザイン面からもサポートしている。なお、ニューヨーク市では2022年に制定された「Local Law 58 of 2022」という法律に基づき、一定規模以上の商業施設やオフィスビルには、このように授乳や搾乳を行うための専用の授乳室を設置することが求められている。Metaのニューヨークオフィスは、先行してその取り組みを実施している。
従業員の健康とウェルビーイング
◆無料のレストラン
オフィス内には、オーガニックや地元で生産された食材を使用した無料のレストランがあり、朝昼晩利用することができる。お寿司や中華料理が食べられるアジアンレストラン、ハンバーガーショップ、メキシカンのフードスタンド、ブッフェスタイルのレストランなどバラエティ豊かで、毎日利用しても飽きない工夫がされている。食材の選定には、環境への影響を最小限に抑える取り組みがなされており、フードロスの削減も推進されている。小麦粉や卵などのアレルギーを持つ人に配慮し、各メニューには使用している食材のイラストがわかりやすく記載されており、誰もが安心して食事を楽しむことができる。
◆ジム、スポーツクラブ
世界中のMetaのオフィスの多くは無料のジムとシャワーが完備してあり、従業員は自由に利用することができる。また、ランニングクラブやサッカークラブなどのフィットネス活動を奨励しており、終業後に有志で集まって運動を楽しむことで業務の疲れをリフレッシュすることができ、従業員同士の繋がりも強化される。従業員の健康的なライフスタイルこそが業務のモチベーションや生産性の向上に寄与している。
◆柔軟な働き方
リモートワークやフレックスタイムを推奨しており、従業員が仕事と家庭生活を柔軟に調整できるような制度を整えている。また、世界中にあるMetaのオフィスのどこへでも出社することができ、例えばニューヨークオフィスに勤務している人が、日本へ旅行中に日本のオフィスから働くことも可能だ。このような柔軟な働き方の推進により、従業員のストレスが軽減され、長期的なキャリア形成にも良い影響を与えることが期待できる。
今回の取材は、Metaの従業員が家族や友人などをオフィスに招待することができるソーシャルビジター制度を利用させてもらった。「家庭」と「職場」は、ともすると分断されがちだが、このように家族やパートナーがオフィスを訪れることで、会社に対する理解や誇り、愛着が生まれるきっかけになるのではないだろうか。ワークライフバランスの重要性が叫ばれる現代において双方の理解を深める非常に良い機会であり、またサステナブルな取り組みを社外に伝える有効な取り組みだと感じた。
文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)
参考:Workplaces – Meta Sustainability https://sustainability.atmeta.com/offices/
LEED rating system | U.S. Green Building Council (usgbc.org) https://www.usgbc.org/leed