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Furusapoニューヨーク駐在員ニュースvol.10

アメリカのペット事情

ニューヨーク・マンハッタンでは、犬の散歩を代行するドッグシッターが年収1500万円もの驚きの報酬を得ている、というニュースが以前日本で話題となった。American Pet Products Association (APPA)の年次レポートによると、アメリカでは67%の家庭が少なくとも1匹のペット(主に犬、猫)を飼っており、ペットの飼育率は世界でトップクラスだ。日本のペット飼育率26%と比較すると、いかに多くの家庭でペットが飼われているかわかるだろう。確かにニューヨークの街を歩いていると、犬を連れて歩いている人をよく見かける。バックヤードやガレージを備えた、いわゆる典型的な「アメリカの大きな一軒家」ではなく、アパートがひしめくマンハッタンでさえこれほど多くの犬が飼われていることに改めて驚かされる。今回は、そんなペット大国アメリカにおけるペット事情についてレポートしたい。

ペットフレンドリーな社会
アメリカへ住みはじめた当初、スーパーマーケットや薬局で買い物をしていると、店内に犬を連れて歩いている人が多くいることに驚いた。それも、ケージやバッグに入っているのではなく、リードをつけて飼い主と一緒に店内を歩いているのだ。アメリカではこのような光景が至る所で見られる。特にレストランやカフェなどの飲食店はペットフレンドリーなお店が多く、たくさんの人がペットと共に食事を楽しんでいる。日本でも多数の店舗を展開するコーヒーショップ、スターバックスでは犬を連れていくと「Puppuccino(パプチーノ)」と呼ばれる犬用のホイップクリームを無料でもらうことができる。同じくアメリカで人気のドーナツチェーン店、ダンキンドーナツでは「Puppy Lattes(パピーラテ)」、ハンバーガーショップのシェイクシャックでは「Pooch-ini(プッチーニ)」等、犬用のおやつが無料でもらえるサービスを提供している。飲食店だけでなく、地下鉄やバスなどの公共交通機関でも日々多くのペットを見かける。ニューヨークの地下鉄を運営するMTAのホームページには、「Pets are welcome on the subway(地下鉄ではペット歓迎)」と記載があり、ペットを同伴する場合はケージやバッグ等に入れるよう注意書きがされている(実際にはこのルールはほとんど守られておらず、バッグに入った犬は見たことがない)。

サービスアニマルの存在

もちろんすべての店舗や公共交通機関においてペットの同伴が許されているわけではない。アメリカで人気のスーパーマーケット、ホールフーズの入口には「Please, No Pets. Service Animals are welcome(ペットは禁止。サービスアニマルは歓迎。)」と書かれている。一部のカフェや美術館等においても同様に、サービスアニマルのみ同伴可の規定がある場合がある。日本人の感覚だと、サービスアニマルと聞くと盲導犬や介助犬を想像するかもしれないが、アメリカのサービスアニマルの定義は非常に広い。特定の障害者のために訓練された犬のことを指すが、盲導犬・聴導犬・介助犬だけでなく、不安障害やパニック発作、PTSDなどの精神的なサポートをする犬も含まれている。この認定は、政府機関ではなく民間の訓練機関や専門団体が行い、オンラインで申請し一定額の登録料を支払うと簡単に認定証を取得することができる。言い換えれば、お金さえ支払ってこの認定証を入手すれば、ほとんどの場所へペット(犬)を同伴することができる仕組みだ。

縮小するペットショップ

アメリカにおけるペットの迎え入れ方は、近年大きな変化を遂げている。過去にはペットショップやブリーダーからの購入が一般的だったが、今では保護犬や保護猫の養子縁組が急速に広まっている。American Society for the Prevention of Cruelty to Animals(ASPCA)のデータによると、ペットとして飼われている犬の約34%がシェルターやレスキュー団体から迎えられ、保護犬を選ぶことが一つのトレンドとなっている。休日には多くの公園や施設、アパート等で保護犬・保護猫の養子縁組イベントが開催されており、ペットを迎え入れたいファミリーで賑わう。もちろんペットショップも存在するが、日本のように街中にいくつも点在するわけではなく、ニューヨークの街を歩いていても、ペットグッズやしつけ教室は頻繁に目にするものの、ペットの販売を行っているペットショップはまだ見かけたことがない。また、多くの州でペットショップで販売される犬や猫の一部が保護犬であることが法律で義務付けられている。ニューヨークにおいても市内のペットショップは、少なくとも1匹の保護犬または保護猫を販売することが求められる「NYC Pet Store Law」が施行されており、これによりシェルターで生活する犬たちが新しい家族と出会う機会が増えている。日本においてもペットショップの在り方が問題視されているが、現在ペットのうち60%以上がペットショップやブリーダーから購入されている。アメリカの保護犬・保護猫を迎え入れる文化は、過剰繁殖の抑制や動物の殺処分削減に寄与しており、日本でも参考にしたい取り組みである。

ペットと共存できる環境づくり

アメリカで犬を迎え入れ、先日日本へ帰国した友人に、アメリカと日本におけるペットとの暮らしやすさについてインタビューを行った。まず、友人が最も苦労したのは、日本での住居探しだった。日本ではペット可の物件が非常に少なく、理想の住まいを見つけるまで時間がかかったという。一方、アメリカではほとんどの物件がペットとの入居が可能であり、特に大都市では多くのアパートにドッグランが併設されていることも一般的だ。また、ペット同伴可能な施設の多さもアメリカの特徴だ。前述の通り、アメリカでは飲食店や小売店に犬を連れて入ることができる店が多く、ペットと一緒に出かけられる場所が豊富だ。逆に、日本ではペットを連れて行ける場所が限られており、アメリカのようにサービスアニマルの制度も整っていないため、不便に感じてしまうという。また、ドッグランの数についてもアメリカは圧倒的だ。都市部や公園内に多く設置されており、犬同士が日常的に交流できる環境が整っている。
このようにアメリカではペットと共存するための環境が充実しているが、その一方でペットのしつけも非常に重視されている。ペットのしつけ教室が多く存在し、さらにデイケア施設で飼い主が仕事中にペットを預けながらしつけのトレーニングを受けさせることができるサービスも非常に人気である。実際、街中で出会う犬たちは、飼い主にぴったりとくっついて歩き、店内で吠えたり他のお客さんや犬に飛びついたりすることなく、非常によくしつけがされている印象である。

アメリカではペットと人間が共存できる環境が整っており、住居や公共の場でもペットに優しい取り組みが広がっている。保護犬・保護猫の養子縁組が普及し、ペットと持続可能な社会の実現にも貢献している。日本においても、アメリカのようにペットとの共生を促進する取り組みを参考にし、より多くの人が安心してペットと暮らせる社会づくりを目指すことが求められる。

文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)


参考:Pet Care Market Size & Share – Trends Report, 2032 (gminsights.com)(https://www.gminsights.com/industry-analysis/pet-care-market)、Leading Pet Industry Association | American Pet Products Association(https://americanpetproducts.org/)、Foster a Pet | Animal Care Centers of NYC (nycacc.org)(https://www.nycacc.org/Foster#:~:text=Take%20your%20first%20steps%20with%20the%20ACC%20Foster%20Team%20by)、Pets on MTA subways, buses, and railroads(https://new.mta.info/guides/pets#:~:text=Find%20out%20how%20to%20travel%20with%20your%20pet%20on%20public)、US Service Animals(https://usserviceanimals.org/certification?utm_source=Bing&utm_medium=Search&utm_campaign=ECD&utm_adgroup=ServiceDogRegistry1&utm_term=service%20dog&utm_content=Bing;Search;ECD;ServiceDogRegistry1;service%20dog;100&msclkid=a1c72005fc4d1e8a1366470011f42c9f)、一般社団法人ペットフード協会 (petfood.or.jp)(https://petfood.or.jp/#:~:text=%E5%AE%B6%E6%97%8F%E5%90%8C%E6%A7%98%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E7%8A%AC%E3%80%81%E7%8C%AB)、ASPCA | American Society for the Prevention of Cruelty to Animals(https://www.aspca.org/)