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Furusapoニューヨーク駐在員ニュースvol.15

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ファッション業界の転換点:大量消費から循環へ

近年ファッション業界では、環境や社会に配慮したサステナブルな取り組みが急速に広がっている。とりわけアメリカでは、ファストファッションやグローバルブランドを中心に、素材選びから製造工程、販売後のリサイクルに至るまで様々な革新的施策が生まれている。しかし、こうした取り組みの背景には、ファッション産業が抱える深刻な課題がある。まず環境面では、ファッション産業が全世界の温室効果ガス排出量の約10%を占めており、これは航空業界と海運業界を合わせた排出量に匹敵するとされる。また、綿製品1着の生産に約2,700リットルの水を使用し、衣類の染色工程では有害な化学染料による水質汚染が発生する。にもかかわらず、世界では年間9200万トン以上の繊維製品が廃棄されているともいわれる。社会面においては、ファストファッションを支える安価な製造体制の裏に、発展途上国における長時間労働や劣悪な労働環境、低賃金といった人権侵害が存在する。このような、倫理的な配慮を欠いたファッション業界の大量生産・大量消費の構造そのものが、根本的な見直しを求められている。今回のレポートでは、アメリカで展開されているグローバルブランドの先進事例、ファストファッション業界が直面する課題とその対応策、そしてリサイクル素材や循環型ファッションへの新たな試みについて、具体的な事例を交えて紹介する。

大手ブランドの取り組み

◆H&M
スウェーデン発のファストファッションブランドH&Mは、早期からサステナブルファッションへの取り組みを打ち出してきた企業である。同社は「Conscious Collection」などを展開し、オーガニックコットンやリサイクルポリエステルを使用した製品を投入してきた。オーガニックコットンは、化学肥料や農薬を使わない有機農法で栽培されており、土壌や水資源への負荷が少ないとされている。また、遺伝子組み換え種子を使わないことで生物多様性の保全につながり、有害物質を使わない点では農業従事者の健康を守る効果もある。これらの理由から、環境面・社会面の両方で持続可能な素材として注目されている。また、ペットボトルなどの廃プラスチックを原料としたリサイクルポリエステルを衣料品に再利用することで、石油由来の新素材使用を抑え、資源循環型の生産体制を支えている。

さらに、世界中の店舗に古着回収ボックスを設置し、消費者が不要になった衣類を簡単にリサイクルに出せる仕組みも整備している。一方で、こうした取り組みはしばしば「グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)」と批判されることもある。たとえば、H&Mはリサイクル素材を用いた製品を毎週のように大量に生産・販売しており、「サステナブル」と称しながら根本的な大量消費モデルは変わっていないとの指摘がある。さらに、製品の素材比率やリサイクル実態に関する情報開示の不透明さが、消費者の信頼を損なう原因となっている。

◆UNIQLO USA
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、アメリカ市場でもサステナビリティへの対応を進めている。とくに「RE.UNIQLO」プログラムでは、着なくなったユニクロ製品の回収とリユース、またはリサイクルを通じて衣類の循環を促している。再生ダウンや水の使用を大幅に削減したドライ素材の開発もその一環である。
さらには、ホームレス支援団体と提携し衣類を寄付するなど、単なるリサイクルを超えた地域密着型の社会貢献にも積極的である。ただし、サプライチェーンにおける労働環境や原材料のトレーサビリティ(追跡可能性)に関しては改善の余地があるとされ、全体としてはシュ分的な進展にとどまっており、循環型モデルへの本格移行には課題が残っている。

◆ZARA
ZARAを展開するスペインのインディテックス社は、ファストファッション業界において最も規模の大きい企業の一つである。2025年までにすべてのコットン、リネン、ポリエステルをサステナブルな素材に切り替えるという目標を掲げており、すでに一部製品ではリサイクル素材が使用されている。また、限定的ではあるが、一部地域で古着回収や修理サービスの提供も始めている。ただし、週に何度も新商品を投入し、安価かつ短サイクルでトレンド商品を供給するという従来型のビジネスモデルは変わっておらず、構造的な課題は根強い。サステナブルな素材を用いた商品を販売しつつも、生産量を減らす動きには慎重であり、大量生産・大量廃棄を助長していると指摘されている。

社会面の課題と対策

アメリカ国内のデータによると、1人あたり年間約37kgもの衣類を廃棄しており、繊維廃棄物の総量は年間1,130万トンを超える。ファストファッションにおける大量生産・大量消費の構造は、環境面だけでなく社会面においても深刻な課題である。例えば、ロサンゼルスの縫製工場では、移民労働者が出来高払いにより極端に低い賃金で働かされていた。これに対し、カリフォルニア州では2021年に「ガーメント労働者保護法(SB62)」が成立し、最低賃金の保証や出来高払いの禁止、ブランド企業の連帯責任が定められた。この法律により、企業は下請け業者任せにせず、自社サプライチェーンにおける労働者の待遇にも責任を持つ姿勢を求められている。こうした制度面での対応に加え、企業側でも徐々に改善の動きが見られる。たとえば、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、サプライチェーンにおける労働環境の改善を目的に、労働者への聞き取り調査や監査を実施し、外部評価機関と連携して透明性のある報告を行っている。また、ZARAを展開するインディテックス社も、労働者の権利保護や工場監査体制の強化を進めており、OECDのガイドラインに基づいた人権方針を公開している。また、2022年には「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」が施行され、新疆ウイグル自治区由来の綿製品の輸入が禁止された。新疆ウイグル自治区では、少数民族であるウイグル人を含む住民が強制労働に従事させられているとの国際的な懸念があり、同地域で生産された綿製品については人権侵害との関与が疑われている。UFLPAはこれに対応する形で施行され、米国に輸入される綿製品には、原材料の出所や生産過程における人権配慮の証明が強く求められるようになった。これにより、サプライチェーンの透明性確保と倫理的調達の必要性が、業界全体に広く認識されるようになった。

循環型ファッションの広がり

循環型ファッションとは、衣類を「生産して終わり」にするのではなく、使用後も再利用・再生・再販売といったサイクルの中で活用し続ける考え方である。衣類の大量廃棄が世界的な環境問題となるなか、持続可能なファッションの実現に向けた重要なアプローチとして注目されている。欧米を中心に企業・消費者ともにこの動きが加速しており、「作る責任・使う責任」を共有するスタイルとして支持を集めている。代表的な取り組みのひとつが、アメリカ発の「Rent the Runway」である。同社は洋服のレンタルサービスを展開しており、ユーザーは高品質な服を必要なときにだけ借りることができる。このモデルは、衣類の所有を前提としない新しい消費スタイルを提案しており、環境負荷の大幅な削減に貢献している。同社の報告によると、累計160万着分の新品生産を回避し、140万点以上の衣類を廃棄から救ったとのことだ。
もう一例として、エシカルブランド「Eileen Fisher」の「Renew」プロジェクトがある。H&Mやユニクロ、ZARAなども古着の回収やリユースの仕組みを展開しているが、それらの多くは消費者から回収した衣類を資源として再利用することに主眼を置いている。一方でEileen Fisherは、同社製品に限定して回収を行い、その衣類をクリーニング・補修し、デザイン性を持たせて再販売する点が特徴である。店舗には再生品専用のコーナーが設けられ、SNSやニュースレターを通じて背景にあるストーリーを発信し、単なる中古品ではなく「過去の記憶が込められた一着」としての価値を訴求している。ブランド理念を反映したビジネスモデルや店舗デザインが、循環型ファッションの先進的モデルとして注目されている。

消費者の私たちにできること

街を歩いていても、SNSを開いても、雑誌を立ち読みしても、私たちの周囲は購買意欲を刺激する情報にあふれている。とりわけファッションは、トレンドの移り変わりが早く、自分らしさを表現する手段としても身近であるため、つい「安いから」「おしゃれだから」といった理由で新しい服を手に取りがちである。しかし今こそ、素材は何か、どこでどのように作られているのか、本当に必要なものなのか、そして今ある服はリユースやリサイクルできないか――こうした問いを一度立ち止まって考えることが求められている。日々の選択を見直すことは、ファッション業界の大量消費構造を変え、循環型モデルへと転換していくうえで、消費者にできるもっとも身近で意義あるアクションのひとつである。

文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)


参考:環境省『サステナブルファッション~地球環境と人にやさしいファッションを目指して~』(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)、Ellen MacArthur Foundation – Circular Economy in Fashion(https://ellenmacarthurfoundation.org/topics/fashion/overview)、UN Alliance for Sustainable Fashion(https://www.unep.org/resources/report/un-alliance-sustainable-fashion)、H&M Sustainability Commitments(https://hmgroup.com/sustainability/)、H&M Garment Collecting Program(https://www2.hm.com/en_us/sustainability-at-hm/recycle-your-clothes.html)、UNIQLO Sustainability – RE.UNIQLO Program(https://www.uniqlo.com/us/en/sustainability/re-uniqlo)、Fast Retailing Sustainability Report(https://www.fastretailing.com/eng/sustainability/)、Inditex (ZARA) Sustainability Roadmap(https://www.inditex.com/en/sustainability)、Fashion Transparency Index (Fashion Revolution)(https://www.fashionrevolution.org/about/transparency/)、Greenpeace Report on Fast Fashion(https://www.greenpeace.org/international/publication/7384/timeout-for-fast-fashion/)、WWF: The impact of a cotton T-shirt(https://www.worldwildlife.org/stories/the-impact-of-a-cotton-t-shirt)、U.S. EPA: Textile Waste Statistics(https://www.epa.gov/facts-and-figures-about-materials-waste-and-recycling/textiles-material-specific-data)、California SB62: Garment Worker Protection Act(https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=202120220SB62)、U.S. CBP: Uyghur Forced Labor Prevention Act (UFLPA)(https://www.cbp.gov/trade/programs-administration/forced-labor/UFLPA)