フードロス削減への取り組み
マクドナルド、シェイクシャック、ケンタッキーフライドチキンなど、世界中に店舗を展開する多くのファーストフードチェーンはアメリカを発祥の地としている。このようなファーストフード文化を生み出したアメリカは、大量生産・大量消費を象徴する資本主義社会でもあり、その影響で膨大な食材が生産される一方、多量の食品廃棄が生じている。この現状を鑑みると、持続可能な未来を築くためには、フードロスの削減が早急に取り組むべき課題であることは明白である。
フードロスの現状と課題
アメリカでは、年間約6,000万トンの食品が廃棄されており、これは全食品供給量の30~40%に相当する。その多くが食べられる状態のまま廃棄され、環境や経済に深刻な影響を与えている。この膨大な食品廃棄物は、埋立地で分解される過程でメタンガスを発生させ、気候変動を加速させている。また、食料安全保障の悪化や資源の浪費といった多くの問題を引き起こしている。この課題に対応するため、2024年6月、バイデン政権は「フードロス・廃棄物削減および有機物リサイクルのための国家戦略」を発表した。この戦略は、2030年までにフードロス(Food Loss)と食品廃棄物(Food Waste)を50%削減する目標を掲げ、フードロスの防止、食品廃棄物の削減、有機廃棄物のリサイクル率向上を柱としている。さらに、米国農務省(USDA)、環境保護庁(EPA)、食品医薬品局(FDA)などの連邦機関に加え、国際開発庁(USAID)も協力し、連携を強化することで、問題解決に向けた取り組みを加速させている。
具体的な取り組み事例
フードロスや食品廃棄物を多く排出する業界としては、レストラン・フードサービス業(55.67%)、小売業(20.28%)、農業(19.16%)が挙げられる。家庭から発生する食品廃棄物も大きな割合を占めており、その主な原因として、賞味期限の誤解や過剰な購入が指摘されている。現在アメリカでは、非営利団体やスーパーマーケットなどの企業、また消費者が利用できるアプリなどテクノロジーの活用を連携させ、フードロス削減に取り組む動きが進んでいる。その具体的な取り組みをいくつか紹介したい。
消費者にとって一番身近な例として挙げられるのが「Too Good To Go」というアプリだ。近隣の飲食店やベーカリー、スーパーマーケットが売れ残った余剰食品を「サプライズバッグ」としてアプリにリストアップする仕組みで、消費者はアプリを通じて予約し、指定時間内に店舗で受け取ることができる。私も実際に利用したことがあるが、人気のベーカリーのパンが通常の半額以下の値段で購入でき、また受け取るまで「サプライズバッグ」の中身を予測できないため、ちょっとした楽しみにもなる。「廃棄される食品を救う」というシンプルなアイデアから生まれ、フードロス削減の社会的意義と経済的利点を融合させたビジネスモデルを構築したこのサービスは、2016年にデンマークで設立され、現在ではアメリカを含む17か国以上で利用されている。
◆非営利団体「City Harvest」
ニューヨークを拠点とする非営利団体で、フードロスを削減し、飢餓に直面する地域住民を支援する活動を行っている。1982年に設立され、ニューヨーク市内で余剰食品を回収し、それを必要とする人々に届ける「フードレスキュー」を実施。レストラン、スーパーマーケット、農場などから収集した食品を無料で地域の食料配給所や炊き出し施設に配布する活動を行っている。City Harvestは、特に子どもを含む低所得層に焦点を当て、栄養教育プログラムを通じて健康的な食生活の促進を目標に掲げている。また、災害時の迅速な食品配給や、パンデミックの影響で需要が増大した際の緊急対応も行っており、年間配布量は約45,000トン以上に及び、300万人以上の住民に貢献している。この取り組みにより、フードロス削減と飢餓撲滅に大きな成果を上げており、ニューヨーク市のコミュニティの強化にも寄与している。
◆「Whole Foods Market」の取り組み
オーガニック食品を多く取り扱う、アメリカで人気のスーパーマーケット「Whole Foods Market」では、2030年までにフードロスを50%削減することを目標に、様々な取り組みを実施している。消費期限が近い食品や売れ残りの商品を地域のフードバンクや慈善団体に寄付し、必要としている人々に届けるプログラムを展開。2022年だけでも3,000万食以上を寄付し、約1,000ものフードバンクやフードレスキューのプログラムを支援した。また店舗では、不完全な食材を積極的に再利用する「アップサイクル」を実施している。形が悪く商品にならない農産物などを購入し、ジュースやスムージーなど調理済みの商品に加工し、農場のフードロス削減を支援している。また、対面販売の魚介コーナーでは、魚の切り身は注文を受けてからカットされることが多く、未使用のまま残った魚の一部はスープやスモークサーモン、その他の加工製品に有効活用される。それでも発生してしまうフードロスは、堆肥や動物の飼料、再生可能エネルギーに変え、埋立地に送らないようにするプログラムに取り組んでいる。2022年だけでも2,529トンの食品廃棄物がこのプログラムによって再利用されている。
各人が「もったいない精神」を持ち、行動することが重要
フードロス問題は、消費者である私たち全員がすぐに取り組むことができる身近な課題でもある。大量生産・大量消費が当たり前となっているアメリカで、日本の「もったいない精神」がどれほど意識されているかは疑問だが、普段の食生活で「買いすぎない」「残さない」を心がけることは誰にでもできる。レストランでは必要な量だけ注文することが大切だが、それでも食べきれなかった場合、アメリカの多くの飲食店では、頼めば持ち帰り用のボックスを用意してくれる。この仕組みにより、外食時のフードロス削減に貢献できる。
例えば、ニューヨークで有名なステーキハウスでは、食べきれなかった料理はもちろん、Tボーンステーキの骨も持ち帰ることが可能であり、この骨を煮込んでカレーを作るのがニューヨーカーの中で密かに流行している。こうした小さな取り組みの積み重ねが、持続可能な社会の実現につながると信じたい。
文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)
参考:EPA (https://www.epa.gov/sustainable-management-food)、ReFED(https://refed.org/)、Feeding America(https://www.feedingamerica.org/our-work/reduce-food-waste)、USDA(https://www.usda.gov/foodlossandwaste)、Too Good To Go(https://www.toogoodtogo.com/en-us)、City Harvest(https://www.cityharvest.org/)、Whole Foods Market(https://www.wholefoodsmarket.com/mission-in-action/environmental-stewardship/food-waste)