エリス島から現代へ
アメリカ移民の歴史と現代政策の課題
マンハッタンからフェリーで約20分。自由の女神で知られるリバティ島のすぐ近くに位置するエリス島は、現在ではマンハッタンやニュージャージーから観光船が運航され、リバティ島とあわせて自由の女神ツアーの定番コースとなっている。しかし、この島はかつてアメリカへの移民を受け入れる玄関口として重要な役割を果たしていた。1892年から1954年にかけて、ヨーロッパを中心に多くの移民がこの島に到着し、入国の可否を判断するための健康診断や法的審査を受けた。移民たちは長い航海の末にここへたどり着き、わずか数時間から数日で入国が認められる者もいれば、病気や書類不備などの理由で入国を拒否される者もいた。つまりエリス島は、新たな人生への希望の入り口であると同時に、選別と制限の場でもあったのである。推定で1,200万人以上がこの島を通過したとされ、現在のアメリカ社会の多様性の礎を築いた歴史的な拠点でもある。
先日、エリス島にある移民ミュージアムを訪れ、こうした移民の歩みについて学んだ。本レポートではその学びを踏まえ、アメリカにおける移民の歴史と、現在の日本やトランプ政権による移民政策との比較について考察する。


移民の歴史:法改正と転換点
アメリカの移民制度の始まりは、Naturalization Act of 1790(1790年帰化法)とされる。この法律では、市民権は「自由な白人」に限られており、当初から移民の受け入れには人種による制限があった。その後1870年には黒人にも市民権が認められたが、本格的な移民規制が始まるのは1875年以降である。1891年の移民法によって移民審査は連邦政府の管理となり、1892年にはエリス島移民収容所が開設された。当時は移民の中心が北西ヨーロッパから南ヨーロッパ・東ヨーロッパへと移っており、貧困や迫害を背景に多くの人々がアメリカを目指した。彼らの多くは安価な三等船で渡航し、エリス島で厳格な検疫・検査を受けた。一方で、一等・二等船の乗客は船内などで簡易的な審査のみで上陸できる場合が多く、その結果、エリス島には比較的貧しい移民が多く集まることとなった。その後1921年・1924年の排他的移民法により移民数や出身国が制限され、北西ヨーロッパ出身者が優先される制度ができ、南ヨーロッパ・東ヨーロッパやアジアからの移民は大きく減少した。第二次世界大戦後の1952年にはアジア系にも一部門戸が開かれ、1965年の制度改革ではそれまでの「出身国ごとの人数制限(国別割当制度)」が廃止された。これにより、特定の地域を優遇する仕組みがなくなり、代わりに「家族関係」と「技能・職業」が移民受け入れの重要な基準となった。具体的には、すでにアメリカに住んでいる人が、家族(配偶者や子ども、親など)を呼び寄せることが優先される「家族呼び寄せ制度」が拡大し、家族単位での移住が進んだ。また、医師やエンジニアなど専門的なスキルを持つ人材は優先的に受け入れられるようになり、労働力としての価値も重視されるようになった。その後は難民受け入れや不法移民対策などが進み、アメリカの移民政策は「受け入れ」と「制限」を繰り返しながら、多様な社会を形づくってきた。
移民はどこから来て、どこに根付いたのか
移民の動機や経路、コミュニティの形成は、時代や出身地域によって大きく異なる。19世紀から20世紀初頭のヨーロッパ系移民は、アメリカの産業革命による経済成長に引き寄せられ、イタリア人や東ヨーロッパのユダヤ系、ポーランド人、ハンガリー人などが渡航した。多くは東海岸や五大湖周辺に定住し、教会や互助組織を中心に「リトルイタリー」などのコミュニティを形成した。到着時にはエリス島で健康診断や書類審査を受け、審査を通過してはじめて入国できた。
アジア系移民は、19世紀末に中国人や日本人の労働者が西海岸に集住し、鉄道建設や鉱山などで働いた。しかし、1882年のChinese Exclusion Act(中国人排除法)により新規入国が10年間禁止され、既存居住者も制限を受けた。それでもチャイナタウンや日系農村などのコミュニティは維持され、1965年の移民法改正以降は中国、インド、韓国などからの高度人材も増え、家族を呼び寄せることでコミュニティを拡大した。
中南米・カリブ系移民は、1950年代から1980年代にかけて政治的・経済的な理由で増加した。キューバ革命後のキューバ人はマイアミに、ドミニカ系移民はニューヨークのワシントンハイツに集まり、地域社会を築いた。プエルトリコ系はアメリカ市民として自由に移動でき、都市部の労働市場を支えた。
冷戦後には、ベトナム戦争後のボートピープルや、1990年代のボスニア・ルワンダからの難民なども受け入れられた。彼らは宗教団体や国際NGOの支援を受けつつ、教会などを中心に生活を再建した。



移民労働者の役割と社会への影響
移民労働者はアメリカ経済の発展において不可欠な役割を果たしてきた。19世紀から20世紀初頭にはヨーロッパ系移民が工場労働や鉄道建設、鉱山などの重労働に従事し、産業化の基盤を支えた。アジア系移民も西海岸で鉄道建設や農業に携わり、インフラ整備や地域経済の発展に貢献した。さらに中南米・カリブ系移民は、サービス業や建設業、農業分野において重要な労働力となり、都市部だけでなく地方経済も支えている。近年では医師やエンジニアなどの高度専門職の移民が増加し、医療やIT分野においてアメリカの国際競争力を高めている。一方で、いわゆるイリーガル移民(不法移民)も農業や飲食業などで低賃金労働を担っており、経済に組み込まれている現実がある。しかし彼らは法的保護が不十分で労働環境が不安定になりやすく、搾取や権利侵害のリスクが高い。また、移民労働者の増加は賃金や雇用機会をめぐる摩擦を生むこともあり、経済的必要性と社会的課題の両面を抱えている。
現代の移民政策の課題と展望
現代のアメリカでは、移民政策は依然として政治的争点となっている。2025年のトランプ2.0以後は、特定地域からの移民制限や、高度専門職を対象とするH-1Bビザ申請手数料引き上げなど、移民受け入れの抑制策が強化された。一方、日本でも外国人の受け入れの議論が進み、経団連は外国人労働力の戦略的確保を提言している。日本政府は移民政策を取らないとしつつも、在留外国人は2025年6月時点で396万人に達し、2023年改正入管法により5年間で123.1万人の特定技能・育成就労外国人受入れ枠が設定された。両国とも「人口減少と経済成長維持」という課題を抱えており、労働力確保と社会的合意形成の両立が今後の政策の鍵となる。こうした現代の状況を、かつてのエリス島の時代と比較すると、いくつかの共通点と相違点が見えてくる。まず共通点として、移民が常に「受け入れ」と「選別」の両面を伴ってきた点が挙げられる。エリス島においても、健康状態や経済的自立の可否などを基準に入国の可否が判断されており、無条件に受け入れられていたわけではなかった。この意味で、移民をめぐる管理や制限は、当時からすでに制度の一部として存在していたと言える。
一方で、両者の大きな違いは、「何を基準に選別するのか」という点にある。エリス島時代には、主に健康状態や最低限の労働能力といった比較的単純な基準が中心であり、多くの移民が労働力として受け入れられていた。それに対し現代では、安全保障、経済競争力、社会統合、さらには政治的支持層への配慮など、より多様で複雑な要因が絡み合い、移民政策が形成されている。その結果、制度は高度化する一方で、手続きの複雑化や受け入れの不透明性といった新たな課題も生じている。
さらに重要なのは、移民をめぐる社会的認識の変化である。エリス島の時代には、移民は主に産業発展を支える労働力として位置づけられていたのに対し、現代では雇用競争や文化的摩擦、安全保障への懸念などと結びつきやすく、社会的な分断を生む要因ともなっている。このような状況は、移民を経済的資源としてのみならず、社会の一員としてどのように受け入れるかという課題を一層複雑にしている。
当時の制度は決して理想的なものではなかったが、多くの移民が社会に組み込まれ、アメリカの発展を支えたことも事実である。この歴史を踏まえると、移民政策は単なる受け入れの拡大か制限かという二項対立ではなく、移民が社会に定着し、その能力を発揮できる環境をいかに整えるかが重要となる。人口減少による労働力不足が深刻な課題となっている現代社会においては、移民の受け入れをめぐり、エリス島時代の経験から何を学ぶべきかが改めて問われている。
文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)
参考:エリス島展示資料(https://www.statueofliberty.org/ellis-island/overview-history/#:~:text=The%20new%20facility%20on%20Ellis,United%20States%20via%20Ellis%20Island)、Pew Reserch Center~How U.S. immigration laws and rules have changed through history(https://www.pewresearch.org/short-reads/2015/09/30/how-u-s-immigration-laws-and-rules-have-changed-through-history/#:~:text=By%20the%20early%201900s%2C%20the,northern%20and%20western%20European%20countries)、一般社団法人 日本経団連「転換期における外国人政策のあり方」(https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/086_honbun.html#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AB%E5%9C%A8%E7%95%99%E3%81%99%E3%82%8B%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%81%AF%E7%B4%84396%E4%B8%87%E4%BA%BA%EF%BC%882025%E5%B9%B46%E6%9C%88%E6%9C%AB%EF%BC%89%E3%80%81%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%80%85%E6%95%B0%E3%81%AF%E7%B4%84230%E4%B8%87%E4%BA%BA%EF%BC%882024%E5%B9%B410%E6%9C%88%E6%9C%AB%EF%BC%89%E3%81%A8%E3%80%81%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%AB%E9%81%8E%E5%8E%BB%E6%9C%80%E9%AB%98%E3%82%92%E6%9B%B4%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82%E3%81%99%E3%81%A7%E3%81%AB%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%81%AF%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%20%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%92%E6%94%AF%E3%81%88%E3%82%8B%E4%B8%80%E5%93%A1%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%82%8A%E3%80%81%E5%9C%A8%E7%95%99%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%81%AE%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AF%E4%B8%80%E6%AE%B5%E3%81%A8%E5%8A%A0%E9%80%9F%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82)、Bloomberg「トランプ氏、移民政策を大幅強化-「第三世界諸国」からの移住恒久停止」(https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2025-11-28/T6F65KKJH6V900