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Furusapoニューヨーク駐在員ニュースvol.20

ニューヨーク都市圏の住宅事情から考えるサステナビリティ

近年、ニューヨーク都市圏では住宅価格と家賃の高騰が大きな社会課題となっている。マンハッタンではワンベッドルームの家賃が月額4,000〜5,000ドルを超えることも珍しくない。住宅価格および家賃の高騰はマンハッタンだけに留まらず、周辺のロングアイランドシティやニュージャージー州のリバーサイドエリアにおいても深刻な問題となっている。私が住むジャージーシティは、電車で約10分でマンハッタンにアクセスできるため、ニュージャージー州の中でも特に利便性の高い地域として知られている。かつてはマンハッタンへ通勤・通学する人々にとって比較的手頃なベッドタウンとされていたが、近年は高層マンションの建設が相次ぎ、人気のスーパーマーケットやレストランも増加している。その結果、家賃水準は大幅に上昇し、新築物件の中にはマンハッタンと変わらない価格帯のものも見られるようになった。都市としての魅力が高まる一方で、低所得層や中間所得層が住み続けることが難しくなるという課題も生じている。このような住宅価格高騰の背景には、複数の要因が存在する。マンハッタンでは土地供給に限界があることに加え、建築規制や建設コストの上昇によって住宅供給が需要に追いついていない。また、コロナ禍以降の都市回帰や高所得層の流入も住宅需要を押し上げている。さらに、マンハッタンの住宅価格上昇によって周辺地域への需要も高まり、ジャージーシティやロングアイランドシティなどでも再開発と家賃上昇が進んでいる。住宅供給そのものは増えているものの、その多くは高価格帯の物件であり、中間所得層や低所得層が居住可能な住宅は依然として不足している。こうした状況の中で、近年アメリカではアフォーダブル住宅政策を通じて、多様な所得層が都市に住み続けられる環境づくりが進められている。持続可能な都市を考える上で、住宅は単なる建物ではなく、人々の生活基盤そのものである。誰もが安心して暮らせる住環境を維持し、多様な人々が共存できる社会を実現することは、環境面だけでなく社会面から見ても重要なサステナビリティの課題である。本レポートでは、アメリカの住宅政策やその課題、さらに住宅コミュニティにおけるサステナブルな取り組みについて考察する。

アメリカのアフォーダブル住宅政策

アメリカでは住宅価格高騰への対策として、行政が民間開発に一定の介入を行う仕組みが整備されている。ニューヨーク市ではMandatory Inclusionary Housing(MIH)と呼ばれる制度があり、再開発地域における新築住宅の一定割合を低所得者向け住宅として提供することが求められている。また、ニュージャージー州ではFair Housing Actに基づき、各自治体が低所得者向け住宅を一定数確保する責任を負っている。私が住むジャージーシティでも、大規模な住宅開発ではアフォーダブル住宅の供給が求められており、新築アパートの一部は市場価格よりもかなり低い家賃で貸し出されている。高級マンションの中に低所得者向け住戸が含まれることも珍しくなく、所得の異なる人々が同じ建物で生活する仕組みが採用されている。さらにアメリカ全体では、LIHTC(Low-Income Housing Tax Credit)という税制優遇制度や、Section 8と呼ばれる家賃補助制度が存在する。LIHTCは、民間の不動産開発会社に税制上の優遇措置を与える代わりに、低所得者向け住宅を供給させる制度であり、アメリカにおけるアフォーダブル住宅供給の中心的な仕組みとなっている。一方、Section 8は低所得世帯に対して家賃の一部を補助する制度であり、受給者は補助金を利用して民間の賃貸住宅に住むことができる。これらはいずれも、行政が住宅を直接供給するのではなく、民間市場を活用しながら住宅問題の解決を図る点に特徴がある。 住宅価格の高騰が続く中、アメリカでは単に住宅戸数を増やすだけでなく、多様な所得層が都市に住み続けられる環境を維持することが重要な政策課題となっている。

低所得者向け住宅政策が抱える課題と議論

高級住宅に低所得者向け住戸を設けることで「治安が悪化するのではないか」「建物の資産価値が下がるのではないか」といった懸念がしばしば議論される。しかし実際には、多くの研究でそのような懸念を裏付ける証拠は見つかっていない。むしろ低所得者向け住宅の整備によって周辺地域の犯罪率が低下したり、住宅価格が上昇したりした事例も報告されている。新しい住宅開発に伴って街灯や公共空間が整備されることや、地域全体の再開発が進むことがその理由と考えられている。一方で、課題が全くないわけではない。研究では、異なる所得層の住民同士が必ずしも積極的に交流しているわけではないことも指摘されている。また、「低所得者」という属性に対する偏見や先入観が存在し、それが住民同士の心理的な距離を生むこともある。つまり、本質的な課題は低所得者向け住宅そのものではなく、多様な背景を持つ人々がどのように共存できるコミュニティを形成するかにあると言える。住宅のサステナビリティを考える際には、建物を供給するだけでなく、人と人とのつながりをどのように作るかが重要となる。近年では、こうした課題を解決するために、住宅そのものをコミュニティ形成の場として捉える取り組みも広がっている。

サステナブル住宅とコミュニティ形成の実践

近年のアメリカでは、住宅のサステナビリティは環境面だけでなく、コミュニティ形成や社会貢献活動まで含めて考えられるようになっている。省エネルギー設備やLEED認証建築などの環境対策に加え、住民同士の交流や地域社会とのつながりを重視する取り組みが増えている。私が住んでいるアパートでも、サステナビリティを重視した様々な活動が行われている。Earth Dayには住民向けに多肉植物が無料で配布され、住民が環境について考えるきっかけづくりが行われている。また、Women’s Dayには女性向け衣類の寄付、Back-to-School Driveでは地域の子どもたちに向けた文房具や学用品の寄付が呼びかけられる。住民はアパートのエントランスに設置された寄付ボックスへ物品を持ち寄るだけで寄付活動に参加できるため、日常生活の中で無理なく社会貢献に関わることができる。さらに建物内には植物を育てる設備があり、毎週木曜日には収穫した食用ハーブが住民に無料で配布される。住民専用アプリには、住民同士が不用品を譲り合うマーケットプレイス機能が設けられているほか、サステナブルな取り組みの写真投稿イベントも開催されており、資源の有効活用や環境活動を楽しみながら実践できる仕組みが整えられている。これらの活動は一見すると住宅とは関係がないようにも見える。しかし実際には、住民同士の交流を促し、地域社会への関心を高めることで、社会的なサステナビリティを支える役割を果たしている。住宅を単なる居住空間ではなくコミュニティの拠点として位置付ける考え方は、今後ますます重要になるだろう。

持続可能な都市づくりに向けて 

ニューヨーク都市圏では、今後も人口集中や建設コストの上昇などを背景に、住宅価格や家賃の高騰が続くことが予想される。そのような状況の中で、住宅問題を市場原理だけに任せるのではなく、アフォーダブル住宅政策のように行政と民間が連携しながら、多様な所得層が住み続けられる環境を維持していくことが重要である。また、住宅のサステナビリティとは省エネルギー性能や環境配慮だけを意味するものではなく、人々が地域で安心して暮らし続けられる仕組みや、人と人とのつながりを育むコミュニティづくりも含まれることを学んだ。今後は住宅の「量」を確保するだけでなく、「誰もが住み続けられる街」をどのように実現していくかという視点が、持続可能な都市づくりにおいてますます重要になるのではないだろうか。

文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)

参考:Housing Choice Voucher Program (https://www.hud.gov/helping-americans/housing-choice-vouchers-tenants)、Low-Income Housing Tax Credit (LIHTC) Database (https://www.huduser.gov/portal/datasets/lihtc.html)、Mandatory Inclusionary Housing (MIH) (https://council.nyc.gov/land-use/plans/mih-zqa/mih/)、History of Affordable Housing in New Jersey (https://www.njlm.org/1266/History-of-Affordable-Housing)、Affordable Housing Decreases Crime, Increases Property Values (https://socialecology.uci.edu/news/affordable-housing-decreases-crime-increases-property-values)、Effects from Living in Mixed-Income Communities for Low-Income Families (https://www.urban.org/research/publication/effects-living-mixed-income-communities-low-income-families)、Jersey City Official Affordable Housing Resources (https://www.jerseycitynj.gov/cityhall/HousingAndDevelopment/affordable_housing