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Furusapoニューヨーク駐在員ニュースvol.21

「宣言」から「実行」へ―Climate Week NYC 2026が示したサステナビリティの新潮流


2026年9月20日から27日まで、ニューヨークで世界最大級の気候変動関連イベント「Climate Week NYC 2026」が開催された。今回は、イベントで取り上げられた主要なテーマや具体的な取り組みを振り返りながら、世界のサステナビリティをめぐる最新動向と、私たちの暮らしや企業活動への影響について紹介する。

世界がニューヨークに集まる「Climate Week NYC」とは?
Climate Week NYCは、国際的な非営利団体Climate Groupが主催するイベントで、毎年9月の国連総会に合わせて開催されている。各国政府や自治体、企業、金融機関、研究者、市民団体など、さまざまな立場の人々が集まり、気候変動対策の方向性や具体的な取り組みについて議論する場となっている。2026年は、ニューヨーク市内で1,500以上のイベントが開かれ、参加者は12万人を超えた。エネルギー、産業、金融、食、健康、都市づくりなど、幅広い分野で議論が交わされた。今年のテーマは「Energy. Impact. Action.」。気候変動対策を単なる理想や目標にとどめず、具体的な行動を通じて社会や経済に変化をもたらそうというメッセージが込められている。なお、Climate Groupのヘレン・クラークソンCEOは公式レポートの中で、この3つの言葉に「courage(勇気)」を加えたいと述べている。対策の必要性を語るだけでなく、実行する勇気が問われたことも、2026年の特徴である。

サステナビリティは「目標を掲げる時代」から「成果を出す時代」へ
これまで、多くの企業や政府が「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」といった長期目標を掲げてきた。しかし、目標を宣言することと、実際に排出量を削減することの間には大きな隔たりがある。今年のClimate Week NYCで特に強調されたのは、こうした目標を具体的な行動へと移すことの重要性だった。例えば、企業が脱炭素を実現するためには、目標を公表するだけでなく、工場やオフィスでの再生可能エネルギーの導入、省エネルギー性能の高い機器への切り替え、原材料の調達方法の改善など、実際の事業活動を変えていく必要がある。そのためには、企業による投資に加え、政府の政策や社会インフラの整備も欠かせない。今後、企業に求められるのは、目標の大きさだけではない。その達成に向けて何を実行し、どのような成果を生み出したのかを検証できる形で示すことである。

AI時代の電力需要と送電網 ―脱炭素の新たな課題
今年の注目テーマの一つが、急速に普及するAIとエネルギーの関係だ。生成AIの利用が世界中で拡大するなか、大量の情報を処理するデータセンターの電力需要も増加している。国際エネルギー機関(IEA)によれば、その電力需要は2030年には現在の約2倍になる見通しだ。AIは私たちの仕事や暮らしを便利にする一方、その稼働を支える電力をどのように確保するかという新たな課題を生み出している。9月25日のイベント「The Future of the Grid」の公式プログラムでは、電力インフラの整備や新しい技術の活用がテーマとして取り上げられた。具体的には、AIを使って送電線などの設備の異常を早期に発見し、故障を未然に防ぐ技術や、住宅や建物のエネルギー使用状況を把握し、効率的な利用につなげる仕組みなどが紹介された。一方で、電力を効率的かつ安定的に供給するだけでは、脱炭素の実現には十分ではない。増加する電力需要を化石燃料による発電で補えば、温室効果ガスの排出量が増える可能性があるためだ。そのため、再生可能エネルギーの導入を拡大するとともに、発電した電気を必要な場所へ届ける送電網の整備など、電力供給の仕組み全体を見直すことが求められる。私たちが日常的に利用する検索サービスや生成AIも、こうしたエネルギーシステムに支えられている。デジタル化による便利さを享受しながら、その環境負荷をどのように抑えていくのか。AIの普及と脱炭素の両立は、今後の持続可能な社会を考えるうえで重要な課題となっている。

企業単独の取り組みから、業界全体で進める脱炭素へ

企業による気候変動対策にも変化が見られる。企業が温室効果ガスの排出量を減らすためには、自社のオフィスや工場での省エネルギー化だけでなく、製品に使う原材料の調達や、取引先の工場での製造工程なども含め、幅広く取り組む必要がある。その具体例として注目されたのが、ファッション業界の新たな連携だ。9月22日、アメリカのアパレル企業Levi Strauss & Co.は、イギリスの小売企業Marks & Spencer、Schneider Electricのアドバイザリー部門(SE Advisory Services)とともに、「Fashion Renewable Collaborative(FRC)」の立ち上げを発表した。この取り組みは、衣料品メーカーや生地工場などが再生可能エネルギーを導入しやすくなるよう、電力調達に関する情報提供や実務的な支援を行うものだ。衣服の環境負荷を考える際、私たちはリサイクル素材などに注目しがちだが、製造工程で使用するエネルギーも重要である。実際、生地をつくる工程は、ファッション業界の排出量の半分以上を占めているとされている。しかし、工場が再生可能エネルギーを導入するには、コストや調達方法などの課題がある。FRCは、立ち上げたLevi Strauss & Co.とMarks & Spencerが協力し、ほかのブランドにも参加を呼びかけながら、こうした課題の解決を目指している。企業が個別に取り組むだけでなく、業界全体で脱炭素を進めようとする動きの一例といえる。

気候変動対策は、私たちの暮らしをどう変えるのか
気候変動対策は、私たちの日常生活にも関わっている。その一例が、ニューヨーク市で進められている建物の脱炭素化だ。ニューヨーク市では、温室効果ガス排出量の約3分の2を建物が占めている。そこで市は、「Local Law 97」という法律によって、原則として延床面積25,000平方フィート(約2,320㎡)を超える建物に、排出量の上限を設けている。上限は2024年から適用が始まっており、2030年にはさらに厳しくなる。2026年9月25日、市はLocal Law 97への対応状況を発表した。市長室によれば、対象となる約2万件の民間物件のうち約95%が遵守に関する報告書を提出し、そのうち約95%の建物が2024年の排出上限を満たしていた。つまり、報告した建物のほとんどが初年度の基準を達成したことになる。市はあわせて、学校への太陽光発電の導入、建物の電化、公営住宅におけるヒートポンプの導入や省エネルギー改修なども進めている。こうした改修には、温室効果ガスの排出削減に加えて、住環境の改善や、長期的には光熱費の抑制といった生活面での利点も期待されている。サステナビリティは、地球環境を守るだけでなく、私たちが暮らす街や住まいをより快適なものにする取り組みでもある。

「実行」の積み重ねが、持続可能な未来をつくる
Climate Week NYC 2026では、AIとエネルギーの課題、企業間の連携、都市の脱炭素化など、さまざまな取り組みが紹介された。一方、新たなプロジェクトの発表が、そのまま温室効果ガスの削減成果を意味するわけではない。重要なのは、取り組みを継続し、実際の成果につなげることである。企業には具体的な行動とその成果を示すことが求められ、私たち消費者にとっても、製品やサービスの背景にある環境への取り組みに目を向けることが求められる。これからのサステナビリティを左右するのは、どれだけ大きな目標を掲げたかではなく、その実現に向けて何を実行し、何を変えたかである。Climate Week NYC 2026は、そのことを改めて問いかけるイベントとなった。


文:山口友妃慧(Furusapo:ふるサポ ニューヨーク駐在員)
参考:Climate Week 2026 Report(https://www.climateweeknyc.org/2026-report)、Climate Week NYC-Highlights: 27 September 2026(https://www.climateweeknyc.org/news/highlights-27-september-2026)、Climate Week NYC-About Climate Week NYC(https://www.climateweeknyc.org/about-us)、The Future of the Grid(https://www.climateweeknyc.org/event-search/the-future-of-the-grid-from-utility-infrastructure-to-end-users)、Levi Strauss & Co. -Powering Fashion’s Renewable Energy Future(https://www.levistrauss.com/2026/09/22/climate-renewable-collaborative/)、NYC Mayor’s Office- 95% of Large Buildings Meet Climate Emissions Limits as Mamdani Accelerates Climate Action(https://www.nyc.gov/mayors-office/news/2026/09/95–of-large-buildings-meet-climate-emissions-limits-as-mamdani-)、NYC Department of Buildings-LL97 Greenhouse Gas Emissions Reduction(https://www.nyc.gov/site/buildings/codes/ll97-greenhouse-gas-emissions-reductions.page)、Key Questions on Energy and AI — Executive Summary(https://www.iea.org/reports/key-questions-on-energy-and-ai/executive-summary)